プラネテスという漫画を知っていますか?
西暦2080年より少し前の、宇宙を舞台にしたSF漫画です。
プラネテスってどんな漫画?(超ざっくり)
主人公のハチは、フィーとユーリとタナベ、3人の仲間と一緒に、地球の周りに浮かんでいるスペースデブリを回収する仕事をしています。
デブリは、「破片」という意味で、スペースデブリを日本語にすると「宇宙ゴミ」。使用済みの人工衛星や、宇宙に出てから壊れてしまった宇宙船のかけらのことです。
なぜそれを回収しているのかというと、スペースデブリは地球の周回軌道上を秒速8kmというとんでもないスピードで飛翔しているから。そんなスピードでデブリがぶつかれば、宇宙船は大変なことになってしまいます。
だからこの時代にはスペースデブリ回収業者が活躍している。
遠くない未来に、プラネテスにえがかれていることが現実になりそうな予感がしますね。
理屈にならない「あの感覚」を取り戻す旅に出よう
今回紹介したいのは、ハチの乗っているスペースデブリ回収船の船長「フィー」さんの物語です。
1度でも社会の常識や大人のつくったルールに合わせて生きてしまえば、クセになってしまいます。そうなると、子どもの頃のみずみずしい感性があっという間に消えてなくなっちゃう。
大人になって、何かのキッカケで「ああ、あの頃の感性を押し殺してるなぁ」と一瞬でも気づいたなら、すぐにでも行動して取り戻そう、という話。
それでは、3つのポイント、
- 大人の都合に合わせない
- 違和感をなかったことにしない
- 星に願わない
に沿ってあらすじを解説しつつ、フィーさんと一緒に「理屈にならないあの感覚」を取り戻していきましょう。
ポイント1.大人の都合に合わせない
スペースデブリ回収の仕事をしていると、まれに「建前はスペースデブリだけど、回収しちゃいけない物体」に出会うことがあります。
国だか政府だかわからないけれど、「そういうことにしといてくださいって」ってなっているモノ。
実はそれは、「軌道機雷」と言われる宇宙兵器。敵に近づいて爆発したら無数のデブリ群となって、敵の宇宙船に超音速で襲いかかる爆弾です。
日常に飲み込まれて忘れてしまったこと
フィーさんは、デブリ回収の仕事をはじめて2年目でこの爆弾に出会い、3年目でいまのダンナさんに出会い、4年目で結婚、5年目で息子のアルバートを生んで、、、
と、時が経つにつれて、宇宙に漂う爆弾を平気でやり過ごせるようになっちゃっていた自分に気づきました。
それに気づかせてくれたのは、息子のアルバート。
アルバートは捨てられた犬を見つけるとどんどん家に連れて帰ってきてしまう、やさしい小学生で、しつけをするのは犬に人間の都合を押し付けるようで嫌だと言い張ります。
犬は暴れ回るので、近所からの苦情が絶えなくなり、とうとうフィーさんは犬が吠えないようにしつけるため、犬の声に反応して酸っぱいスプレーが出る首輪を犬たちにつけました。
フィーさんはアルバートをさとします。「あんたはやさしい子だけど、でもやさしいばかりじゃダメなんだよ。もーちょっと大きくなったらわかるよ。」と。
アルバートは、そんな話は一切聞かず、母親であるフィーさんの腰を後ろから思いっきり蹴り飛ばします。叱りつけようとフィーさんが後ろを振り返ると、アルバートは反抗的な目でフィーさんをにらみつけました。
大事なモノを見つけるまで、やりたいようにやる。息子の姿に感化されたフィーさんは、立ち上がります。
大人の都合に合わせるのではなく、自分の純粋な疑問や素直な気持ちに従って、気の済むように行動することを決めたのです。
ポイント2.違和感をなかったことにしない
フィーさんは、アルバートのおかげで「理屈にならないあの感覚」を取り戻そうと決心してから、昔、森の中に住むおじちゃんとよく遊んでいたことを思い出しました。
おじちゃんは社会になじめず、定職にはつかずに、1人で実家の近くのキャンプ場に住んでいました。フィーさんはおじちゃんが大好きで、よく家に遊びに行ったのですが、フィーさんのお母さんはいい顔をしません。
おじちゃんは、フィーさんのお母さんの弟。
フィーさんのお母さんは、おじちゃんに対して、無職で、住所不定で、黒人で、人付き合いのないひとり身の変わりモノだと世間が見ていることが問題で、せめて世間から目をつけられないように人並みに生きて欲しいと願っています。
どうしようもなく、愛のない出来事
ある時、近くのまちに住んでいる少女が行方不明となったとき、まっさきにおじちゃんが疑われました。何もしていないのに、警察に事情聴取され、行方不明の少女の父親には犯人扱いされ、おじちゃんは悲しい思いをします。
川で魚釣りをしながら、おじちゃんはフィーさんに、こんな話をします。
「みんなと仲良くできない、みんなの中で生きるのが苦しくて、苦しいと逃げちゃうダメな子なんだ。たぶんおじちゃんがいけないんだ、努力して変わらなきゃいけないのにね」
そんな話をしているときに、おじちゃんの家から煙が上がっていることに2人は気づきます。
急いで帰ると、家は炎の中でした。
おじちゃんは、怒りの表情でこういいます。
「なんなんだ?オレがいけないのか?本当にオレがいけないのか?」
「どっちなんだ?オレと、この世界と。狂ってるのはどっちだ?」
そう言って、おじちゃんは森の奥へ消えたまま、二度と姿を現さなかった。
行方不明だった少女はただの家出で、すぐに川の向こうでうずくまっているところを発見されました。
少数派として生きる決意
社会の都合には合わせられない、でも、自分なりに、自分の信念を元に、懸命に生きている。
誰も間違っちゃいないし誰が正しいってワケでもないこの世界で、なぜ少数派が、みんなと少し違う生き方をしている人が、こんなにも生きづらいのか。
でもだからって多数派に屈して、自分の中に芽生えた違和感をなかったことにすることは、絶対にしない。
フィーさんは、おじちゃんとの思い出から、これまで見て見ぬふりをしてきた宇宙に漂う爆弾と本気で向き合う決心をしたのでした。
ポイント3.星に願わない
アメリカに敵対する先進国宇宙軍が機雷を爆破させて米軍兵士が死亡するという事件がおきました。アメリカは宇宙に秩序をもたらさなければならないという名目で戦争をはじめるつもりです。
いままさに宇宙戦争がはじまろうとしており、そうなればデブリがデブリを生み出し続け、やがて地球の周りがデブリで覆いつくされてしまう、「ケスラー・シンドローム」という現象が発生してしまう。
そんなことが起こったら、デブリ回収業者はたまったもんじゃない。
10年かかってやっと回収できる量のスペースデブリをたった10分でまき散らす「ケスラー・シンドローム」。これを食い止めるために、もう社会や大人たちの都合には合わせないと決めたフィーさんと仲間は、法律を侵してまで非常警戒宙域に侵入し、デブリ回収を続けました。
誰の指図も受けず、言いなりにもならず、自分の中に芽生えた違和感をやり過ごすこともしない。
気に入らないことは気に入らないと言い、理屈や取引で人を動かそうとするやつらには動じない。
ただ、自分の役割・仕事を全うすることだけを考えて行動しはじめたフィーさん。
結局、アメリカに敵対する宇宙軍の巨大な宇宙船は、アメリカ軍によって爆破されてしまった。
社会に馴染めなかった人は、どこにいけばいい
爆発した巨大な宇宙船を見ながら、フィーさんは、おじちゃんのことを思い出します。
「おいちゃんはどこへ行ったんだろう。このクソみたいな社会についに馴染めなかった人は、どこへ行けばいい。」
フィーさんはこの事件の後、バカどものしりぬぐいはもうたくさんだ、こんな世界私の手には負えない、気に入らないことはやらない、と自主退社という形でデブリ回収の仕事を辞めました。
天に祈ったらどうなっていたのだろうか
憂さ晴らしのために、夜中にバイクをかっ飛ばしていたフィーさんは、犬を引きそうになり、転倒します。
誰もいない暗い夜道、重たいバイクを1人で押しながら、引きそうになった犬と一緒に延々と歩き続けました。
スペースデブリが地球に降り注ぎ、まるで星が流れているように見える夜空を仰ぎながら、フィーさんが何かを願おうとしたとき。一緒に歩いてきた犬が鋭く吠えました。
フィーさんはどうしようもないと思えることから目をそらすために、自分の無力感を肯定するために、天に祈ろうとしていた。犬のおかげで、そんな自分に気づいて、我に返ったのだと思います。
そのあと、夜通しバイクを押し続けてようやく自分の町に着いたとき、朝日が照らすいつもの町が、世界が、なんだかいつもより美しく見えた。そしてまたデブリ回収の仕事に戻る決意をしたのでした。
まとめ:自分もそれを忘れた1人だった
今回は漫画「プラネテス」の中に入りこみ、フィーさんと一緒に「あの頃の素直で純粋な感性を取り戻す」旅をしました。
以下はフィーさんのセリフです。
たぶん大人になる過程を経るうちに、何かが鈍くなってしまうんだろう。
成長したいとか、立派になりたいとか、そう思っているうちに忘れてしまう感覚がある。
自分もそれを忘れた1人だった。
息子のアルバートの目つき、おじちゃんの生き方を通じて、大事なことに気づいたフィーさんに、自分の姿を重ねてみることで、感じることがたくさんあったのではないでしょうか?
このシーンの最後を、フィーさんはこんな言葉でしめくくります。
おいちゃん、いま、どこにいますか?いまもあなたは、大人の心と一緒に、子どもの心を持ち続けていますか?私は…
あなたにもわたしにもあった、理屈にならない「あの感覚」。
いま取り戻しましょう。
プラネテスは全4巻。時間が経って読み直してみると、また違う気づきや発見がある深い漫画です。大野は悩むことがあるたびに何度も読み返しています。
おすすめなので、ぜひ読んでみてください。
それでは、またー!