みなさんは「アドベンチャー教育」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
あまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、これ、いま日本に間違いなく必要なモノだと言えますよ。
「子どもの教育の話だよね?」と思いがちですが、その中身は大人にとっても大きな価値のあるプログラムになっています。
アドベンチャー教育で使われている「プロジェクトアドベンチャー」の考え方や手法で、企業研修や学校の先生の研修、プロジェクトのチームビルディング、さらにはJリーグでもチーム作りをしているチームがあります。
アドベンチャー教育は主に「人の健全な心を育てる」という目的を持っていますが、その言葉だけでは伝えきれない奥深さがありました。
先日ライジングフィールド軽井沢で開催された「アドベンチャーファシリテーター講習」を受けて感じたことを踏まえて、書いていきます。
アドベンチャー教育とは?
「アドベンチャー教育」とは、教育哲学者のクルト・ハーンさんが提唱し、人間教育を目指した教育であり、現在世界中で実践されています。
その中には様々な手法があるようなのですが、ぼくが受講したのはプロジェクトアドベンチャーという手法を取り入れたもの。
プロジェクトアドベンチャーとは、1971年にマサチューセッツ州で設立されました。
その中心人物であるハミルトンーウェンハム高校の校長のJ.ペイさんは、父親の影響を受けてアウトワード・バウンド・スクール(OBS)にかかわってきた人です。
OBSは大自然を舞台にし、冒険活動にチャレンジする学校。
ペイさんは、これを費用的にも場所的にももう少し身近に、学校などで体験出来るものを作りたくて、プロジェクトアドベンチャーを設立したのです。
ロープコースやパークにチームでチャレンジする「アドベンチャー教育」が、アメリカからある日本人によって持ち込まれ、今日本中に広まりつつあるのです。
なぜ今アドベンチャー教育が必要なのか?
「アドベンチャー教育」は、人との関わり方や信頼関係の作り方を体験し、社会の中で自らの役割を発見し自分を肯定する力を身につける教育のことです。
人と人とのコミュニケーションが希薄化していると叫ばれる今、人との関わり合いと信頼関係の作り方について体験し、「健全な心」を育てるアドベンチャー教育が必要になっています。
アドベンチャー教育をアメリカから持ち込んだ、「ある日本人」のひとりである難波克己さんは、こう言っています。
山や海などの厳しい大自然の中でさまざまな活動に取り組むこと(アドベンチャー)には、自分と向き合うこと、難関にチャレンジすること、仲間と協力すること、達成感を味わうことなど、人間の成長に欠かすことのできない多くの体験が含まれています。
こうしたアドベンチャーが持つ価値を教育に取り入れたものがPAで、アメリカでは1970年頃から実施されはじめ、高い効果を上げることが実証されています。
引用元:科学するTAMAGAWA さまざまな体験を通して健全な心を育む「tap」
アドベンチャー教育は、「人間に欠かすことのできない体験」を、キャンプ場や学校などの身近な場所で得ることができる教育。
人は教室で座って受動的に勉強する以上に、自らの体験から実に多くのことを学びます。
教室や会議室の中で得ることはできない学び。だけど、今の子どもや大人に必要な学びが、アドベンチャー教育の中にあります。
アドベンチャー教育ってどんなことやるの?
「アドベンチャー教育、アドベンチャー教育っていうけど、一体どんなことやるの?」
そうですよね。では、ぼくが見て体験してきたこと、そこから感じたことをわかりやすく書いていきますね。
講師を務めてくれたのは、なんとアメリカから日本にアドベンチャー教育を持ち込んだ「ある日本人」であり、日本におけるアドベンチャー教育の第一人者である難波克己さん。
何も知らずに行ったのが恥ずかしいのですが、最高の講習会でした。
アドベンチャーファシリテーター講習の中では、特に「信頼関係を築く」ことが重要視されていました。
ロープコースやパークを使ったアクティビティに入る前に、小道具を使ってチームのみんなで「遊ぶ」ということを入念にやったのです。
ぼくが感じたのは本番のロープコースよりも、みんなで「遊ぶ」方が大事だということ。
お互い信頼関係が築けていなければ、コースに入っても本当の意味で力をあわせることができません。
というわけで、ここで紹介するのは、ロープコースに入る前の「遊び」で学んだことが中心になります。
「人は必ずできるようになる」という遊び
「負けた方が偉いじゃんけん」というのをやりました。
普通は勝ったら勝ちですよね笑。
勝ったら気持ちがいいじゃないですか。
でも、勝てたのは誰のおかげかな?と考えると、負けてくれた人がいるからですよね。
だから負けた人は偉いので、勝った人は負けた人に深々とお辞儀をするんです。
で、負けた人は「エッヘン!」というジェスチャーで威張る。
意味わかりましたか?これ、頭が混乱するんですわ。
まず、普段は勝ったら勝ちなので、頭の回路がそのようにできているワケで、まずそこで混乱します。
で、次に勝ったら「ありがとうとお辞儀をする」ということにも混乱します。
これはいつもとまったく違う回路を使っているので混乱しています。
逆に言うと、人は「いつもの通りにつながっている回路を使おうとする」と言えます。
でも、いつもとまったく違う回路を使い続けていると、不思議なことにできるようになってくるんです。慣れてくるんですよね。
これを「シナプスがつながった」と難波さんは言っていました。
ひっくり返せば、いまできないのは「シナプスがつながっていないだけ」なんです。
この「遊び」は、
・人間は一度身についた習慣の通りに無意識に動いてしまう
・いまできないことでもシナプスをつなぐように繰り返せば必ずできるようになる
という示唆を与えています。
人間は、繰り返せば必ずできるようになる。
いまできなくても、絶対にできるようになる。
勇気と力を与えてくれる「遊び」でした。
「自分の状態が鏡のように相手にうつる」という遊び
みなさんは、無意識に目の前の人の真似をしているときってありませんか?
これは人間の特性で、目の前の人の行動を鏡のようにうつそうとする脳の働きなのです。
難波さんは何も言っていないのに、ある遊びのときにこのミラーニューロンが全員に働いたときがありました。
そして、「あなたが緊張した顔してたり、怒っていたらどうですか?目の前の人は楽しめる?」
と言われ、驚愕しました。
自分の状態が相手に影響するのです。
これほど説得力のある体験はありませんでした。
「限界は脳が勝手に作っている」という遊び
次はエクササイズ系の遊びです。
詳しく説明するのは難しいのですが、目はどこまで見えるか?体はどこまで曲がるか?の限界を超える遊び。
最初は「ここまでしか曲がらない!」と思っていたのが、ちょっとエクササイズをするだけで、限界をヒョイっと超えてしまうんです。
体は動くのに、脳がストップをかけているだけで。
脳は勝手に勘違いをして、暴走したり、抑止したりするんです。
大半のことは、「本当はできるのに脳がストップかけているだけ」なんだろうなというのがわかりました。
限界を作っているのは脳なんですよね。
本当はもっとできるはずなんです。
「自分の固定観念を知る」という遊び
次はフラフープを使った「ヘリウムフラフープ」という遊び。
これ、超不思議体験でした!
5人1組で輪になって、それぞれ両手の人差し指を出します。
そして、フラフープを指で持ち、地面に下ろす。
ただそれだけなんですが、、、どんどん浮き上がっていくんですよ、これが!
ビビりました。
詳しくは言いませんが、フラフープに対する固定観念がそうさせているようなんです。
全然下がらないので、イライラしてしまいました笑。
いろんな言い訳やできない理由が出てくるのは、固定観念に縛られているからかもしれません。
それをを壊して、より良い方法を見つけ、前に進めるか?
チャレンジするときには現状に縛られずに発想する力が求められますよね。
煮詰まって悩んで動けなくなった局面をブレイクスルーするために必要な視点を与えてくれる遊びです。
「もっとやりたい!が引き出される」遊び
最後にメインのアクティビティーを一つだけ紹介します。
子どもも大人も、体を動かすのは大好きです。
やってみて、できなければもっとやりたくなる、練習したくなります。
そう振る舞える環境なら、人は勝手に学んで勝手に上達していきますよね。
ロープコースやパークには「もっとやりたい!」が引き出される魅力があります。
楽しむこと・遊ぶことは、大きな学びや気づきにつながるんだと実感しました。
感情と学びはいつも一緒にある
講師の難波さんが言っていた言葉で印象的だったのが、「感情と学びはいつも一緒にある」です。
「え!?わかんない!」「どうなってるの??」という感情からアドベンチャーが始まる、と。
ポジティブな感情の動きによって学びが加速され、記憶に深く刻まれるのです。
逆に、傷ついてしまったら、もしかしたらその人は一生学びたくなくなるかもしれません。
ネガティブなことも深く深く記憶に刻まれますよね。
良い学びに大切なのは「ポジティブな感情」でしょう。
体験を通じて学ぶアドベンチャー教育は、ポジティブな感情と学びを結びつけてくれます。
アドベンチャー教育の中で、ポジティブな感情と学びを結びつけるために大切にしている3つのことを講習で学びましたので、紹介します。
<行動規範>何を大切にして行動するのか?
アドベンチャー教育のプログラムに入る前にやっておかなきゃいけないのは、「今日そのチームは何を大切にして行動するのか?」つまり「行動規範」を確認することです。
アドベンチャー教育が基本としている行動規範は、「安全!」「楽しむ!」「一生懸命やる!」の3つ。
この3つにしてしまってもいいのですが、できればそのチームが大切にしたいことを自分たちで立ち上げ、それを念頭にプログラムに入るのがベストです。
規範を念頭に置きつつ、体を動かします。
そして、自分たちが大切にしたい感情を記憶に結びつけていくのです。
こうすることで、行動規範は無意識に入り込み、日常にもなじんでいきます。
人は、そんなにたくさんのことをいっぺんに覚えられませんから、「行動規範を3つにする」というのもミソですよね。
<モヤモヤ感>コンフォートゾーンを広げる
コンフォートゾーンとは、心地よい場所のこと。
人は常に安心や安定を求めて動きますので、今の環境が心地よいと動きたくなくなるものです。
ですが、コンフォートゾーンにずっと居続けるということはチャレンジしないということですよね。
「できるかどうかわからない…」というリスクの中に飛び込む。
そうやって、少しずつコンフォートゾーンを広げて、できる範囲を増やしていくことが、成長するってこと。
その居心地の良い場所から、自然に飛び出してしまうきっかけが、「モヤモヤ感」なのだと、難波さんは言っていました。
できない、わからない…モヤモヤする!
だから、「できる・わかるようになりたい!」と行動するのです。
モヤモヤ感は自分から学びのために動いてしまう、強烈な感情。
感情が行動に結びつき、感情が、成長のための学びの場へと連れて行くのです。
講習のアクティビティーは、モヤモヤする仕掛けがたくさんありました。
モヤモヤが自発的な学びへと向かわせるという体験を何度もして、モヤモヤ感の大切さを実感しました。
<信頼>安心安全な場づくり
安心安全な場だからこそ、自分を解放することができます。
人は危険や不安を感じる場では、心を閉ざし、体を硬直させます。
そうなってしまったら、学びどころではありません。
だから信頼関係が大切であり、安心安全な場づくりが重要になるのです。
「何を言っても大丈夫」「自分のことを受け入れてくれる場所だ」という感覚が、参加者の力を解放させるのです。
難波さんは、この安心安全な場作りに配慮されている様子でした。
講習ではメンバーに恵まれたというのもあり、自分の意見が言いやすい、とても安心できる場がセッティングされたのが印象的でした。
「アドベンチャー」という言葉の力強さ
難波さんは、「それはアドベンチャーだね!」という言葉を連発していました。
モヤモヤしたとき、もっと知りたいと思ったとき、新しいことを始めるとき、できなかったことにもう一度チャレンジするとき。
日常に存在しているやりたくないことも、もしやろうと思えたなら、それもアドベンチャー。
今いるコンフォートゾーンからほんの半歩でも出ようとすることは、すべて「アドベンチャー」なんですね。
それはアドベンチャーだね!と言われると、なんだか勇気が湧いてきて、やりたくないこともワクワクしながらチャレンジできます。
まとめ:毎日がアドベンチャー
そう考えると、毎日がアドベンチャーです。
人間は生まれてからずっと、アドベンチャーを繰り返して成長しています。
赤ちゃんの頃は、リスクに怯えず、好奇心のおもむくままに、チャレンジを繰り返して、多くのことを学んでいたはずです。
でも、世の中のことを知っていくにつれて、成長に大切なアドベンチャー精神を忘れていってしまいます。
もしチャレンジに臆病になっている自分に気づいたら、「アドベンチャー」という言葉を思い出してみてください。
「トイレ掃除をした!」「ランニングを始めた!」「自分からあいさつをした!」
どんな些細なチャレンジもアドベンチャー。
あなたがあなたのコンフォートゾーンを広げ、成長し続けるための合言葉です。
白黒な世界に鮮やかな色をつけ、毎日のチャレンジをワクワクさせてくれます。
みなさんは今日、アドベンチャーしましたか?
最後まで読んでいただきありがとうございました。