「経営者は孤独である。」
この写真は、春休みに行った安土城跡から見た琵琶湖。
織田信長は天守閣から、何を見ていたのだろうか?と思いを馳せました。
ぼくが今でも仲良くさせてもらっている、以前勤めていた会社の前社長を見ていて思ったことです。
ぼくはその人の「人間的な部分」を知っていたのと、知的で、経験が豊富で、話がとても面白くて勉強になって、一緒にいるのが楽しくて、好きでした。
だけど、社員の多くにはその魅力が伝わっていなかった。
それが悔しかったし悲しかったな、というのが今でも思い出されます。
社長という立場
「なぜ魅力が伝わらなかったか?」というと、彼は会社の中と外で「本音と建前」「立場・役職の違い」「公と私」を完璧に分ける人であり、多くの人が「会社人・組織人・社長」としての彼の一面を、それが全てであると捉えていたからでしょう。
元々、社長の立場に立って考えられる人など他の社員の中にいるはずがありませんし、その上本人は会社人として「社長」という存在として、他者からの見られ方を(ぼくからみれば)「異常に」気にする社長でしたから。
「社長と現場の一社員が、会社の中で普通に話をするなどありえない」
と言われたことがあります。当時はこの言葉だけを正面から捉えて「この人は何をこんなに偉そうにしているのだろうか」と思っていました。
これが全てだと捉えてしまうと、「冷たい経営者だな」と感じてしまいますが、「組織の長として、組織人として、組織を通じて伝えていくという態度を日頃から徹底しなければいけない」という彼なりの理論があったからなのだと、引退した彼と話をしてやっと理解したんです。
社長も人間である
ぼくは彼の魅力を知っていました。
組合の仕事をしていて、たまたま近くでお話をする機会が多く、「人間的な部分」を知ることができました。
彼は社長である前に、ひとりの父親であり、ひとりの「ただのおじいちゃん」であり「ただの父親」でした笑。時に、孫のかわいさを語り、時に、娘とのお風呂の思い出を語っていました。
ある時急に「お父さんとはお風呂に入りたくない」と言われ、その日から一緒に入らなくなった。その日がいつ来るかわからないんだから、お前も今一緒にお風呂に入る時間をかみしめたほうがいい。
と温かいアドバイスをくれたことがあります。
また、彼はその会社を大きくしたベストセラーマシンを開発したすごい人なのですが、自社の機械のことを語るときの熱量は半端なかったです。特に自分の開発した自慢の機械を語るとき、エネルギーに満ち溢れていて魅力的でした。
家族のことや、エネルギーが乗っているポジティブな言葉を聞いた時、ぼくはいつも涙が出るほど嬉しかった。「社長も人間」なのだとわかった瞬間が嬉しかったんです。
でも、会社の「社長」の時は、まったく違う仮面を被っていて何者なのかわからないのです。
当然、社長としての楽しい瞬間、社長でなければ味わえない喜びもあったでしょう。でもぼくは、「本当の自分」を隠して生きる場面が毎日ある、その人を見ていて苦しくて苦しくてしかたがなかった。
ぼくは彼が好きだったし、「本当の」彼を知っていたので、他人事ではなく、まるで自分のことのように苦しかったことを今でも覚えいています。
ぼくが取った行動
だから、勘違いをしている人たち、人間としての「本当の」彼の姿を知らない人たちに理解してもらいたくて、ぼくは彼に対して良くない印象を持っている人たち、誤解している人たちに彼の「人間的な部分」を語るようにしていました。
彼自身にも、「現場に出て社員との距離を縮めた方がよいから、一緒に現場に行きましょう!」と誘い続けました。(結局受け入れてくれなかったけど笑)また、経営者と現場の距離を縮める必要があると強く感じ「インナーブランディングプロジェクト」というものに参加志願し、経営者や上司に本音を言いまくってあばれました。
組織の活性化を目指して、ファシリテーションの勉強もしました。
会社の中の前向きな社員に集まってもらって対話をする企画を立て、提案し、何度も実行しました。
今思うこと
今になって思えば、正解はありませんし、いろんなやり方があるのだと思います。
当時のぼくは良い意味でも悪い意味でも「素直過ぎ」て、気持ちだけで思ったことをそのまま行動に移していました。
一般人には想像できないほどの苦しみに耐えられるから社長なのかもしれないとも思います。社長の「人間的な部分」など理解してもらわなくても、組織運営がうまくいく会社だってあるかもしれません。
ぼくはこれまで、その人の「人間的な部分」を感じてもらわないといけない、と思っていました。
そうでなければ、お互いのことがわからない、何考えているかわからないから、関係が良くならない、聞く姿勢を持たない、お互い言いたいことは伝わらない、、、そして、勘違いをしたまま、間違った方法でその溝を埋めるためにエネルギーを浪費する。
上司は立場・権力を利用した指示・命令をしたり、部下は腹落ちしていないけどやらざるを得ないやり切れなさを「負の感情」として仕事や同僚や部下に放出し始める、というようなエネルギーの浪費です。
それを総称して「コミュニケーションに問題がある」と言っていたんだな、と今さらやっと分かりました笑。
「孤独な悩み」を抱える経営者の3つの苦しみ
他にも、本音を聞ける知り合いの経営者とお話をしたことがあります。
彼らの中には、やはり孤独な悩みを抱えている人が多い。同い年で、ずっと一緒に会社で働いてきて、今ではもっとも近い右腕的存在の人にさえ、「言えない悩み」があると言っていた人もいます。
「解決したい課題や悩みは抱えきれないほどあるし、次々に生まれてくる。」
「組織が大きくなってくると、見えない部分が増えて予想できない問題がどんどん発生する。」
「情報共有がうまくいかず、社員が何をやっているか見えなくなってくる。」
という経営者もいました。
会社を背負う立場の経営者は、その「言えないこと」を「会社や社員のために」形にして実行していく決断をしなければならない。言えないからうまく伝わらないし、勘違いもされる。本当の苦しみはその立場にならないと理解できませんが、想像しただけでも辛くて耐えられる気がしないっす笑。
ぼくは、これまで感じた「経営者の苦しみ」と、何とかしたいと行動してきて人と話しながらわかってきたことが3つあります。
「孤独な悩み」を抱えている経営者の方々は、
1.会社人として、常に「もう1人の社会的な自分」として仕事をしている
2.「本当の自分」にフタをして生きている
3.誰にも相談できない「事実」を握っている
がゆえに苦しいのです。
本当は「ただの人間」なのに、そうは見られないのです。
そう見られてはいけないのだと、強く心に決めているのです。
だから苦しくなる。
それをぼくは今まで正直に「バカじゃないの?もっと素直に生きればいいのに」って言ってただけなんです。相手の苦しみもわからない「バカ」はぼくでした笑。
経営者を「孤独な悩み」から解放するために必要なたった1つのこと
問題はたった1つです。
それは、「事実が見えない状態を、そのままにしておくこと」です。
「見えない」ものを、放っておいたら伝わるはずがないし、伝わらなければ想像するしかない。
で、それぞれ間違った解釈をして、余計なことにエネルギーを使う。
見えないから不安になり、悪い想像は止まらず、さらに大きくなる…
不安を大きくする負のサイクルが回り始める原因は、
「見えない状態を、そのままにしておくこと」
です。
ということは、やることは明確です。
まずはすべてを「見える状態」にしていくことから始めればいいだけです。
社会的な自分のこと、本当の自分のこと、誰にも言えない事実(悩み)を、頭だけでモヤモヤと考えずに、紙に書いたりパソコンをたたいたりして「見える状態」にすることから始めれば、問題は自然と解決に向かいます。
見えないから、伝えられないと思い、ますます深刻になる。
でも、見えれば、伝え方がわかってくる。
だから、まずは「見える状態」にする。
これがわかってきた今、本当に今さらですが、ぼくが助けたかったあの人のサポートが今ならできるのに、一緒に対話をしながら「見える状態」にして、伝え方も一緒に考えながらサポートすることが、今ぼくが持っているものを使えばできるのに…と、後悔が止まりません。
これからぼくがやるべきこと
「少し遅かったなー」「彼の役には立てなかったなー」と後悔しています。
だけど、彼の苦しみに出会ったからこそ、今の自分がいます。
自分のモチベーションとパッションを知り、今まで必死にやってきた点と点が繋がって、今の自分ができた、ということは本当にありがたいことです。一生懸命やってる時はわからないんですね。あの経験なくして今の自分はいないのです。
あの時助けることができなかった「彼」を、今なら助けることができる気がします。
これからやるべきことを、また一つ言葉にできました。
それではー!