「組織能力」を「ポジショニング」で味付けすれば日本企業の復活パターンにハマる、という話。

 

 

会社は、千差万別の人間が入り混じって1つの集合体を形成しています。
それを「1つの考えを持った集団」と位置づけるのか、「千差万別の個性をもった集団が1つの方向性に向かう船に乗っている」と位置づけるのかで、出力されるエネルギーも、柔軟さも、向かう方向も、結果はまったく違うものになると思います。
 
千差万別の「個人の個性」を受け止めて1つの個性とする大きな器を持っているのが会社だとすると、いかに会社がその大きな器でもって個人の個性をエネルギーに変えていけるかで、どんな「会社の個性」ができあがるかどうかが決まる。
 
「ストーリーとしての競争戦略」では、会社組織が長年にわたって培ってきた、他者がそう簡単には真似できない経営資源は、組織に定着している「ルーティン」つまり物事のやり方だと言っています。そしてそのルーティンは「会社の個性」であり、会社がコレからの時代を生き残っていくためには、醸成されたルーティンを発見して「会社の個性」を伸ばしていくことにかかっているのではないかと思います。

 
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photo credit: Pulpolux !!! via photopin cc

 

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またまた「ストーリーとしての競争戦略」から。
さまざまな日常業務の背景にある、その会社に固有のやり方というのが、組織能力(OC:Organizational Capability)の正体で、これこそ他者が真似できない経営資源であり、競争優位の源泉になり得るものだということです。
 
本書を読んでいくと、OCは時間をかけて培ってきた下地がある場合や、コンセプトによって生まれる打ち手が組織のルーティンとなり、強いOCを醸成していく場合もあるということがわかります。
 
競争優位の源泉としてもう一つ、ポジショニング(SP:Strategic Positioning)というのがあるそうで、これは言ってみれば「無競争」の状態になるべく近づこうという戦略で、ムリせず競争を避けて利益を上げていけるポジションを取ろうという戦略です。
本書には、アメリカの優良企業(マイクロソフト,デル,ウォルマート)などは、いずれも創業者が構想した明確なSPで台頭した後に、時間を掛けてOCを強化していったと書いてあります。
 
そして日本の会社の特徴について、興味深いことが書かれていました。「日本企業のOCバイアスと復活パターン」というお題で、SPとOCの2つがうまく混ざりあうことが復活のカギであると。引用しながら紹介します。

 

 

日本企業にOCのバイアスがあるのはなぜでしょうか。さまざまな理由が考えられます。OCの発想には「我慢して鍛えていれば、(今はそうでなくても)そのうちきっといいことがある」という面がありますから、これが日本人の性格や日本の文化的気質に向いているということもあるでしょう。OCのカギであるルーティンの「模倣の難しさ」は、経路依存性のところでも出てきたように、長期にわたる累積がものをいいます。だとすると、長期雇用や年功制といったこれまでの制度がOCバイアスの一因になっていそうです。経営者のタイプや育ち方も関係がありそうです。これまでの日本企業の経営トップには、本社の役員会議室でのビッグ・ディシジョンというよりも、長期的な視野に立ったOCの筋トレを好む、地味なたたき上げ型の人々が目につきます。

 

 

レストランに例えると、料理がとてもおいしいと評判なのは、シェフの「レシピ」のおかげなのか?それとも使っている素材や料理人たちの腕やチームワーク、すなわち「厨房」のおかげなのか?という話で、レシピに注目するのがSP戦略、厨房に注目するのがOC戦略であり、日本は厨房の能力を根気強く高めていけばいつかきっと良いレシピを突き抜けられる!という根性論的な体育会系のノリで鍛錬を続けてきた会社が多い、というのです。

 

 

「失われた10年」を「失われなかった10年」として過ごすことができた日本企業の例として日産が挙げられていました。

 

その最たる例が日産でしょう。カルロス・ゴーンCEOの描いたレシピが効いたのはもちろんですが、一方で「日産には底力があった」ということがよく言われます。この底力に相当するのがOCです。いかにゴーンシェフであっても、日産が高いOCを持ち合わせていなければV字回復は難しかったかもしれません。

 

 

そして日本企業復活のカギとして、OCを持ち合わせている企業であれば、SPを明確にすることで競争力を回復できる可能性があると書いています。

 

レシピは動き出せば早いのですが、厨房を強化するにはどうしても時間がかかります。この意味で右下(OCが強くSPが不明確)に位置する企業には大きなポテンシャルがあります。日本にこの種の企業がたくさんあるとすれば、日産やキャノンや日本電産のパターンで、SPをはっきりさせることによって競争力を回復する可能性があります。

 

 

会社で働く人たちが素直に受け入れられる社内の常識「ルーティン」が必ずあるはずです。それは「個人の個性」によって生まれ、育てられてきたはず。私が思うのは、まず始めに「個人の個性」を認めて受け入れることが必要だということです。それが「会社の個性」を見つけるカギになり、ルーティンの発見につながる。
 
会社が長年培ってきたはずのOC(組織能力)、つまり物事のやり方「ルーティン」を発見し、それが強みになり得るような明確なSP(ポジショニング)を決めるというステップになります。「長期にわたって持続可能な利益を上げる」ために必要なこと。
 
逆に、これができないと、恐ろしいことが起こると書かれています。最後に引用。

 

OC先行型の企業では、厨房が徐々にダメになっていく、という怖さがあります。冷蔵庫の中身がだんだんと、時間をかけて腐っていく。マネジメントや社員もはっきりとした危機感を持ちにくい。そのあげく、気づいたときには何もない左下(OCも弱くSPも不明確)に陥ってしまう危険があります。カネボウの破綻の事例に見られるように、日本のかつての優良企業の破綻の背後にはこうしたメカニズムがありそうです。

 

おー、こわ。それでは。

 

 

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1980.1.1 東京生まれ YouTubeチャンネル『シンプリィライフ』では、本を参考にしながら無意識の思い込みから自由になる方法をアニメーションで解説しています。本業は古本買取サービス「バリューブックス」のSEOマーケティング担当。